第789回 「コストカットマンションと業界の苦悩」

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マンションメーカーはいつも強気のように見えます。しかし、マンションは数量限定品だから高い値段でも売れるだろうと高をくくっているわけではありません。高くなってしまい、売れなくて困った事態を何度も味わって来たので、強気もほどほどにしなければならないとも考えているのです。

 

 しかし、土地を安く買う独自の方法などありませんし、建築費も特別に安くしてくれるくれるゼネコンもありません。ここに、業界の苦悩があります。

今日は、いかに販売価格を下げるかの課題に取り組むマンション業界の裏事情に迫っています。

 

◆安い土地がない

 価格急騰の局面において、マンションデベロッパーは、いかに2大原価の用地費と建築費を安く抑えるかという課題に苦悩します。

 

土地が売り出されると、マンションメーカーはこぞって入札に参加します。そして、一番札を入れた企業に高値で売却されます。

 

入札によらない土地もありますが、それは、どちらかと言えば狭小地か、広くてもマンション立地としては不向きな条件、例えば工場に近いとか、線路沿いとか、あるいは駅から距離があることなどで、売りにくい土地の場合です。

これらは、買い手が中々現れず、最後に無名のマンション業者が買ったりします。

 

  例外なく、マンション業者は「いい土地がないなあ」と嘆いています。

 

時計の針を戻すと、バブル崩壊後のひところ、マンションデベロッパーにとって信じがたい一等地が次々に放出されたことがありました。

 

 日本の企業経営の根幹であった「含み経営」思想が2000あたりから崩れ始めました。それまでは、土地は手放さなければ含み益を生み出し、企業を支えるという一種の信仰がありましたが、それが大きく変化したのです。

 

歴史ある企業が保有していた土地の内、比較的早く売却を決めたのは社宅でした。社宅は、その多くが取得時は田舎・郊外だったかもしれない場所にありましたが、近年は住宅地として最高の条件を有する、将に「一等地」に変貌していました。

それが雪崩をうったように市場に出たのです。

 

学校の敷地も売り出されました。郊外への移転によるもので、都心の本部ビル・校舎は残しながら一部を切り売りした資金で、売った土地の10の広さを郊外に買ったのでした。廃校に伴って売り出された学校の売却例もありました。

 

ある消費財メーカーは、製造拠点の海外移転によって不要になった工場を売却しました。倉庫を売却した例も多数ありました。それらは工場・倉庫なのに市街地に近い、または市街地にありました。マンション業者にとっては垂涎の適地となりました。

 

こうした企業・団体の土地放出は、景況の悪化で資金繰りに窮したという理由ではなく、新時代を迎えての積極的な「リストラクチャリング」の一環でした。

創業か100年にもなろうかという老舗企業でなくても、戦後誕生した5060企業は「含み益」のある優良な土地資産を数多く保有していました。

 

今も、毎年少しずつ社宅を整理統合したり単純売却を計画的に実施したりする企業は残っていますが、2000年初頭に始まった社有地大量放出の潮流は78年くらいで一巡し、もはや売地は底を着いてしまったのです。 最近は、再び「土地がない」と嘆く日々です

 

このような経過が、最近10年ほどの供給戸数の少なさにつながっているのです。

 

また、交通利便性の高さを条件とする点など、ホテル用地とマンション用地は類似点が多いので、このライバル企業がマンション適地をさらってしまうらしく、マンション業者は泣きっ面に蜂だと嘆くことになりました。

 

マンションは開発期間を考慮し、少なくとも2年先の販売商品にすべく用地を買収して行くのですが、大手が扱う大規模敷地は5年先を見越しているものもあります。再開発案件になると10先のプロジェクトも普通です。

 

マンション業者にとって、用地難は構造的な問題です。マンション業者がどれほど努力しようとも、用地を次々に取得することは難しいと考えざるを得ないのです。

用地が少ないために争奪戦が激しくなり、条件の良い土地の価格は強含みに推移します。

 

建築費も然りです。過去の上昇局面でも、建築費を下げるためのアイディアはいくつも生み出されましたが、画期的な方法は定着しませんでした。今回も、様々な策が実行に移されていますが、どれも限度があって目覚ましい効果があると言える策はないようです。

一線を越えると、品質の低下につながるためです。

 

受注するゼネコン側も研究を重ねていますが、建築費に占める人件費の比率は50%近いと言われているので、資材調達費の低減や施工の合理化だけでは建築費を下げる力にはなり得ず、半ばあきらめ顔の状況にあると言えるかもしれません。

 

◆コストカットマンション

新築マンションの完成後、購入者を招いて実施される「内覧会(ユーザー検査)」に筆者も立ち会うことがあります。そのとき、様々なことが見えて来ます。

マンションは完成してしまうと、入居者に知り合いがいない限り中を見ることができなくなるので、筆者のような研究者にとっては貴重な体験ともなります。

 

コストダウンとグレードアップはデベロッパー永遠の葛藤です。

どのような商品でも価格を無視してよいものはありません。分譲マンションでも同じです。ただ、商品価値を構成する立地は工夫のしようがない部分なので、建物のみに企画の対象は限定されます。

 

その場所では、どのような商品スペックがふさわしいか、そして販売可能な価格はいくらかという検討からスタートして行きます。

価格の安さを優先する物件がある一方、価格が相場の3割高でも販売可能な立地条件だと判断し、建物もそれなりのクォリティを目指そうとする物件もあります。

 

開発の過程で様々な壁にぶつかり、企画者と設計者は悩みます。価格が高くなっても構わないと言っても、限度がないわけではないからです。それこそ販売単価が坪当た1000万円を超えても買い手が集まりそうな特殊な立地を除けば、デベロッパーはどこかを必ず妥協して商品化しているものです。

 

天井高を全階2.6m以上にしたいが、建築規制があって不可能なので2.5mで仕方ないなとか、内廊下にして絨毯張りにしたいが、その場合、間取りは1寝室がどうしても行燈部屋になってしまうが、そこは目をつぶることにしよう、外廊下の場合では、主寝室のプライバシーを保護するために廊下と主寝室との間に吹き抜けを設けたいが、コストアップが大き過ぎるので止めようなど・・・・・葛藤する例を挙げると無数に出て来ます。

 

最も悩ましく解決の難しい課題は、条件の良くない住戸を、価値ある住戸にどう変えるかです。例えば、環境の良い住宅街における1住戸の企画です。

 

よく見かけるのは、4階建ての低層マンションにおける1階の住戸で、フロアレベルがグランドレベルより低い住戸です。都区内で8000万円も9000万円もするような1住戸が半地下のようになっている例は少なくないのです。

 

半地下住戸は売りにくいので、価格を目玉商品的に安く設定している例があります。安くしなければ売れないからです。言い換えると、半地下マンションを好む人は絶対数として少ないので大胆な安値にするほかないのです。

 

売りにくい半地下住戸をなぜ設けるのか、それはそうしなければ採算が取れないからです。1000坪の土地に4階建ての40戸を建てるのと、半地下住戸を中止して3階建て30戸にするのでは、1戸当たりの土地代が大きくなり過ぎ、販売価格は恐ろしく高いものになってしまうのです。

 

このような例を挙げるとキリがないので、このくらいにしますが、要するに企画・設計はコストと隣り合わせにあり、デベロッパーはコストを睨みながら優れた商品をいかに企画するかに知恵を絞っています。

 

コストカットしたくても、一定の機能性とデザイン性を維持しつつ、価格を抑えたマンションにしなければ買い手の支持を得ることはできません。

マンションユーザーは我が家が安物マンションだと思いたくないので、仮に専有部分は多少劣っても、外見が賃貸マンションのように見られてしまうことを望みません。

 

低予算の買い手であっても、それぞれの買い手にとって大金を払うことには変わりありません。本人がどこまで意識しているかはともかくも、外観やエントランス周りのデザインなども含めて、大金を払うに値する高いクォリティを購入マンションに求めるのです。

 

複数の物件を比較検討する過程で、品質が劣後している物件と認識しつつも妥協の限界を自ら踏み越え、価格の安さだけで飛びつくことはありません。

 

このような購買心理を研究し尽したマンションデベロッパーは、少なくとも外形的に低級なマンションと見られないよう自制し工夫を凝らします。

 

比較的高額な物件では、高級感をアピールしつつ、コストを下げるという二律背反の課題に取り組んで商品化します。安さを売りにする物件でも、賃貸マンションでは見られない高さと規模の大きさ、広いエントランスホールとコミュニティルームなど共用施設の設置などで付加価値をアピールします。

 

では、どの部分でコストをカットしているのでしょうか? 買い手が直ぐ気付く部分でも、また気付かれにくい部分でも、様々な箇所でコストカットを図っています。

しかし、そのコストカットの詳細を売主は敢えて説明しません。図面集という販売資料のどこかに書いてあるので、それを見てくれという態度です。

 

コストカットの典型は、アルコーブのない間取りであり、直貼りの床構造ですが、その他では天井高、共用部ではエレベーターの設置台数、エントランス周りのデザインとホールやロビーの壁・床の仕上げ材などに表われます。

 

より優れたマンションを、より安く買いたいと思うのは自然なことですが、満足度100の家など存在しません。気に入らない部分があるとか、目に見えない部分で品質が劣っていると知っても、それらの程度が買い手にとって許容範囲であると思えれば、あるいは優先順位で見て枝葉末節のことと割り切ることができれば、それでいいのです。 

 

要は、少しくらい不満があっても、長く快適に住まうことができるかどうか、その視点が大事なのです。コストカットが全て悪いわけでもないのです。

 

◆売り手の論理

しかし、買い手がどこまでのコストカットを受け入れてくれるだろうかと想像し、悩みながら、デベロッパーは品質の低下と維持または向上と葛藤しながら商品化を進めています。

 

良いものを提供したいけれども、仕方ないのです。なにしろ建築費が上がり過ぎて。販売価格が高ければ希望に添えないので、質は少し低くなるが、これでも構わないという買い手があるなら、そのニーズに答えるのもデベロッパーの務めです。

 

売り手は、「本意ではないのだ」こんなふうに言い訳しているようです。

「昔は食器洗浄乾燥機がなかったのですから。インターホンもテレビモニターはなかったのですから。テレビモニター付きになってからも、最初は白黒で満足していたのですから、これでも十分にレベルの高いマンションのはずですよ」・・・とでも言いたげです。

 

一定程度は的を射た弁解です。実際に満足して買って行く人があるのも事実ですから。しかし、買い手とは、契約した後も「この選択は正しかったか」と調査を続けるものです。筆者に寄せて下さる「物件評価」のご依頼には、そうした買い手の心理が色濃く反映されているのです。

 

調査の結果、自分の買ったマンションの質の低さに落胆し、後悔してしまう人も少なくないようです。「知らない方が良かった」と感じた人もあるに違いありません。

 

◆最後に、「マンションの価値は立地条件で決まる」

予算と物件価値を睨み合わせながら、そして住戸の広さと階数などを比較しながら購入物件を選ぶ・・・・・モデルルームを見て一目ぼれする人、どこも同じだなあと冷めた感想を漏らす人、狭いなあ、高いなあと落胆して他も当たろうとする人など、買い手の行動、葛藤は、買い手側にも売り手側にもいたことのある筆者には鮮明に映ります。

 

長年、購買者心理と市場の動き、なかんずく中古マンションの値動きを研究してきた筆者は、マンションの価値は「立地条件で決まるものである」と言い続けています。

 

立地条件の良し悪しは、都心・準都心・郊外といったマクロに見た差異、最寄り駅の「駅力」の差異、駅からの遠近といった指標で左右されます。

 

こうした観点から評価されて物件の価値は定まるのです。どれほど価値ある建物であっても、立地条件の弱さを補いきれるものでなく、特に郊外マンションほど選別の目は厳しくなると考えなければなりません。

 

需要のボリュームが多い都心立地なら、駅から5分も8分も大差はつかないのですが、郊外は需要ボリュームが少ないので、売り出される中古マンションは厳しく選別されます。5分も8分も大差ないではなく、駅前物件だけが評価されるという郊外の街も少なくないのです。

 

最寄り駅単位で見れば、その駅圏で一番と言えるくらいの物件を選択しておかないと、将来の売却価格は期待がしにくいことになります。郊外マンションを選ぶとき、立地条件の妥協はできないと思った方がよいのです。

 

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