第790回 「晴海フラッグの激安価格に思う」

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 晴海フラッグは、いわゆる「五輪選手村マンションのことですが、最も注目を集めるマンションです。20223月発売の第2期は平均倍率6.6倍で即日完売となったようです。

 今後も人気が続くでしょうか?今日は、この晴海フラグについて筆者の見方を述べようと思います。


●人気の理由は破格の安さにある

 晴海フラッグは、都区内では珍しい「バス便のマンション」です。 バス便マンションは一般に格安で販売されるのが常識です。 晴海フラッグも例外ではなく、格安に分譲されています。

 

 冒頭で述べたような人気になっているのは、ひとえに安いからです。 その安さも中途半端な安さではなく、驚くほどの安値です。

 

 安く分譲できたのはなぜでしょうか? マンションの原価構成は、用地費と建築費ですが、晴海フラッグは用地費が極端に安かったからです。建築費は、どこで建てても大差はありません。大型のマンションほどスケールメリットが現れるものの、場所は無関係です。

 

 晴海フラッグの安値は、ひとえに用地取得費の安さによるものです。事業主の企業は東京都の所有地を激安で取得することに成功したのです。

あまりにも安い価格で手放したと都議会で追及された一幕もあったのは記憶に新しいところですが、五輪の選手村として貸与したあと個人用のマンションにリニューアルする費用も嵩むこともあって、破格の安値で売却価格が決定されたのです。

 

建築費はどこでも同じと言いましたが、規模が大きければ、いわゆるスケールメリットがあるので安く請け負うゼネコンも現れます。晴海フラッグは例を見ない規模ゆえに、建築費も安かったはずです。 結局、用地費も建築費も安いマンションとして計画は出発したのです。

 

事業主体が、議会で問題視されるほど安く用地を譲り受けたのは、とにかく破格の安値でなければバス便マンションを大量に販売するのは困難との計算があったからです。

 

スタート初期は人気を博しても、4000戸もある物件を売り切るのは至難の業であるという認識が事業主側にあったのでしょう。

 

ところが、オリンピックを挟んで都区内のマンション価格は高騰を続け、相対的に晴海フラッグは割安感が強まり、事業主に神風が吹く格好となりました。つまり、予想以上の売れ行きを示すこととなったのです。

 

●将来価格も安いかも?

 高くは売れないかもしれないが、格安で買ったなら損はないだろうと考える人も多いはずで、それが相対的に割安となった晴海フラッグの人気を支えています。人気の要因は、中央区にしては安すぎるからです。

 

 加えて、コロナ禍で在宅勤務者が増えていることも後押しをしてくれたと分析できましょう。なんといっても中央区のマンションなのです。絶対距離で東京駅や新橋、銀座といった超都心ともいえる地区は㎞圏内なのですから。

 

 連結型のバスも走るというし、相乗りタクシーも制度化が進んでいるから、市の便は大きな問題ではない・・・・このように考える購入者は多いのでしょう。こうして、今のところは順調どころか想定を超える好調な売れ行きとなっているのです。

 

 ただ、残る戸数は大量です。果たして、この後はどうか、興味は尽きません。

 

●現地見学の感想

筆者が現地を見たのは、2018年11月3日のことでした。まだ建物の建設は始まっていなかったときです。

選手村のすぐ隣にある「晴海客船ターミナル」の6階に上ると展望台があって全貌がよく見えるのです。

 

筆者はルポライターの素養はないので、プロのようには書けませんが、「潮の香りがするなあ」、「空が青い」、「あ~海だ」、「レインボウブリッジや豊洲の街が一望にできる」、「目と鼻の先は豊洲新市場だ」など、とても新鮮でした。

 

住宅(各住戸内部)からは、どんな光景なのだろうか? そんな思いも浮かびました。50階建てのマンションも2棟建つ予定になっていて、その48階にタワー以外の住民も自由に上って景色を楽しむことができるのだそうです。

 

リゾート地のような場所と言えるかもしれないとも思いました。通勤を考えなくていい人、つまり、リタイアしたシニア世帯や、ホームワーク、テレワークが可能な人には毎日が楽しいかもしれないなあ。そんなことも頭をよぎりました。

 

非日常が日常に」という、何年か前に有明に完成したマンションの広告で使われたキャッチコピーを同時に思い出しました。

 

有明からお台場にかけては、観光資源、フジテレビ本社・アクアシティお台場・デックス東京ビーチ・パレットタウン・船の科学館・大江戸温泉物語・日本科学未来館・テレコムセンター、コンベンションセンターなどの集客施設があります。

 

広大な緑地もあって、ここは非日常的な暮らしができる。しかも休暇を取って遠くへ旅行するのではなく、日常的に楽しむことができるのです。確か、そんな意味合いを込めてのキャッチコピーだったと記憶しています。

 

さて、選手村マンションはネーミングがHARUMI FLAG(晴海フラッグ)となりました。分譲マンションだけでなく、賃貸マンション、シェアハウス、ケアレジデンス、シニアレジデンスなど、あらゆるライフスタイルに合わせた住まいが、活気ある街を生みだします、とアピールしています。



(画像:物件公式ホームページ)

 

ここには、新たに小中学校ができるそうで、マンション住民を受け入れるのでしょう。整備される公園もきっと素晴らしいものになることでしょう。上の図の下部に「晴海ふ頭公園」がありますが、ここは右端の道路を越えて豊洲方面まで長く続くようです。

 

計画戸数という項目を見ると、住宅5,632(分譲住宅街区4,145戸、賃貸住宅街区1,487(シニアレジデンス、ケアレジデンス、シェアハウス含む)、他に店舗・保育施設、商業施設と記載されています。

 

●販売計画とBRT

4,145戸を何年で売るつもりなのでしょうか?

物件概要のページを開くと、入居予定時期 2023月下旬とあります。タワー棟は2025年のようです。

 

内部の改修期間がかかるからでしょうか、販売開始から引き渡しまで5年~6年をかける計画のようです。

 

筆者の研究では、1物件が1年で集客できる戸数の限度は大都市東京でも、概ね1,000戸なのです。4000戸もあれば約4年かかるはずなので、オリンピック後に販売開始などと「のんびり構えていられない」と考えたのでしょう。

 

大量の数を確実に売るには、どこにもない圧倒的な魅力を持つマンションにしなければなりません。物件のホームページには、その魅力の一端が高らかに謳われていますが、通勤の足がBRT(高速バス輸送システム)だけでは難しいので、最終的には「価格の安さ」を打ち出すことが必須です。


画像:東京都都市整備局HPより(中央にある2棟の50階建て超高層マンションは選手村としては使わず、建築されるのは五輪後)

 

通勤の足はBRTだけと書きましたが、HPによれば都営大江戸線「勝どき」駅(A3b出口利用)で最も近い棟まで徒歩17(4街区E)、最も遠い6街区F棟と5街区A棟までは徒歩22分とあります。

 

これでは、徒歩圏とは言えません。都心への直線距離では非常に近く、魅力的な場所ですが、足がない以上、陸の孤島というほかありません。

 

BRTで勝どき駅に着き、そこから都営地下鉄大江戸線に乗るというケースを想定すると、勝どき駅は駅ホームや地下鉄入り口には今でも長蛇の列ができています。1日平均の乗降者数は10万人と10年間で4割も増えたからです。

 

 東京都は当初、五輪までに築地市場の跡地に幹線道路の環状2号を通し、虎ノ門から新橋、築地、晴海を通って豊洲を結ぶ片側23車線の大動脈をつくる計画でした。ここにBRTを走らせるのです。

 

BRTはバスと路面電車を組み合わせたような新型の交通システムですが、名古屋市のように専用レーンを設けるわけではないので、複数の車両を連結するなどして通常のバスより大量に輸送できるようにするとは言うものの、果たしてスムーズな輸送ができるでしょうか?

 

 急激なマンション開発で勝どき駅はパンク状態なので、BRTに頼らざるを得ませんが、渋滞なしで運行できるのか、疑問は残ります。

 

土地を不当に安く売却」したとして問題になりました。

都は201612月、選手村建設を担う大手不動産11社との間で、中央区晴海の都有地約13ヘクタールを約129億円で売却する契約を結んだのですが、坪あたりにすると約33万円になります。周辺の路線価は250万円だそうで、不当に安いというわけです。

 

 オリンピック選手村は建設費用に加えてリフォーム費用が別途かかる。選手村で使用する間取りからの変更や、パラリンピックのための車いすに対応した浴室・エレベーターの設置など、一般のマンションとして販売するには大幅な改修が必要になるためと都は説明しています。

 

単純比較では相場の2割安なので破格のレベルですが、マンションの価値は立地で決まる比重が高いのです。バス便の選手村マンションが、いかに立派であろうとも、フラッグシップになる計画であろうとも、立地の不利をカバーしきれるものではありません。

 

マンションの価値は、物件固有の条件によって判断されるものです。好みも人によって異なります。郊外のバス便マンションとは明らかに違いますが、バスと聞いただけで敬遠する人、湾岸エリアを好まない人、統一デザインは団地的として街並みに抵抗感を抱く人もあるのです。

 

このような需要動向から、駅前のマンション、超高級マンションばかりが集まる一部地域のマンションの人気が落ちる可能性はなく、値崩れすることは考えにくいのです。勝どき駅で、坪単価400万円もする中古マンション(タワー上階)を選択する人は、その潤沢な予算から、駅から遠いマンションには向かわないのです。

 

●将来の価格を心配する声も少なくない

筆者へ届くメールの大半は、具体の物件について「買っても大丈夫か、高くないか、10年先のリセールバリューはどのくらいか」といったものです。このニーズは非常に多いことが分かっています。

 

需要があって供給が少ないとき、物の値段は必然的に上昇します。天候不順で野菜が育たないために出荷量が減ると価格が上がるというのと同じです。

 

新築マンションの供給量は、2008年頃から低迷しています。詳細は割愛しますが、首都圏の需要ボリュームに対して1万戸~2万戸が毎年不足しています。その状態が少なくと10年近くも続いているので、10万~15世帯が買いたくても買えない「難民」になっている可能性があります。

 

新築を諦めて中古マンションを買った人もあるので、実際はもっと少ないと推定されますが、どこにも行かず、今も新築マンションを待っている人が大勢いるのです。

日本人には「新築志向」が根強くあるためか、ありもしない新築を今日も探し歩いています。

 

新築にせよ中古にせよマンション選びは「あちら立てれば、こちらが立たぬ」ものです。

 

マンション探しを続けると、様々な知識と情報が自然に耳に、目に飛び込んで来ます。そこから苦悩が始まります。例えばこうです。

 

・長い目で見れば、家余り時代なのだから、マンションの価格はどんどん下がるということになるのでは?

・狙いは中古か新築か?本当はどっち?

・築30年以上の古いマンションを買ってリノベーションしたいが、問題はないか?

・築40年経っているが、リノベーション済みなので奇麗で設備も悪くないうえに価格は安い。これって掘り出し物ではないか?

・共用施設は無駄じゃないの?

・タワーマンションは修繕費が多額にかかるというから止めた方がいい?

・タワーマンションの下層階を検討しているが上層階との価値の差はどのくらい?

・北向きの2LDKを買うつもりだが、売却するときの価格は安くなるか?

・売れ残りマンションを値引き交渉して買うという購買態度は正しいか?

・高い。良いものがない。中古も結構高い。中古はよく分からない。

・新築にせよ中古にせよ、どうやって探したらいいの?

10年後に売却する可能性があるので、そのとき大きな値下がりがあると困る。どの程度の値下がりを覚悟しておけばいいのか?  

5年以内に転勤の可能性がある。売るか貸すかのどちらかにしたいが、この物件は問題ないか?

・駅から徒歩10歩くが、環境はいいし、妻は一目惚れしている。自分は徒10分に抵抗はないが、駅から近いほどリセールバリューは高いと聞くし、この物件を買って大丈夫だろうか?

・間もなく販売開始される物件を待つか、今この物件で決めてしまうべきか?

 

書き切れないほど、買い手の悩み・疑問はあります

以上のような買い手の不安に目を向けると、晴海フラッグの将来には確証が持てないと言わざるを得ないのです。

 

●安く買った晴海フラッグなら将来の売却で大損はしないかも?

晴海フラッグを購入した人の中には、リタイア族・セミリタイア族も少なくないようです。また、勤務地が新橋~丸の内、銀座~京橋といった都心に勤務する人たちも多いと聞きます。

都心のビジネス街に職場を持つサラリーマン層から見れば、絶対距離で近い晴海フラッグは魅力的に映るのでしょう。しかも、激安ゆえに広い部屋が手に入るということも加わって、人気を博しているのでしょう。

 

これだけ安い買い物なら、将来の売却価格も安くなって大損するようなことにはなるまい・・・このように考える買い手さんもあるのかもしれません。

 

筆者のサービスメニューに「将来価格の予測レポート」がありますが、個別のオーダーには個別にお答えする方針なので、具体の数値をここで明らかにすることはできませんが、これまでのレポートでは、住戸位置、方位、広さなどで差異はあるものの、予測値はどれも悪くない結果を提示していることだけお伝えして終わりにしたいと思います。

 

●最後に;バス便の大規模開発は世田谷区深沢にもあるが・・・

東京都世田谷区深沢に「深沢ハウス」があります。 同マンションは、東急東横線「都立大学」駅 徒歩15分、東急田園都市線「駒沢大学」駅 徒歩18分とあります。

 

13棟もあるのですが、772戸と晴海フラッグの5分の1程度のスケールです。比較にはならないとも言えますが、バス便の大型マンションという共通点はあるので最後に触れておきましょう。2004年6月に竣工した物件なので、既に18年を経過しています。


駒沢公園に隣接する緑豊かな立地である『深沢ハウス』。駒沢公園の緑との連続性をもたせた溢れる緑と水辺のあるランドスケープ。地下駐車場を設けることで、敷地の約1/3の約1万3000㎡の水辺や緑地空間を実現しています。また、目の前にバス停があり通勤・通学に便利です。

 

東京都立大キャンパス跡地に建てられた深沢ハウスは、駒沢オリンピック公園の南側に隣接しており、国立病院機構東京医療センターやめぐろ区民キャンパスにほど近い場所に位置する物件です。

 

中古マンションとしての深沢ハウスの取引価格は、2022年現在、坪単価300~350万円ほどのようです。

周辺の駅に近い物件では、中規模マンションで坪単価350前後ですから、バス便マンションとしては高い市場評価です。


●深沢ハウスの取引事例(過去 2年)

  B棟 1階:92.08㎡:8400万円=302万円

  B棟 2110.28㎡:10,600万円=318万円

  E棟 4階 85.19㎡:7900万円=306万円

  D棟 1階 90.15㎡:9100万円=333万円

  棟名省略

  9階 90.85㎡:8500万円=309万円

  10階 90.11㎡:8480万円=311万円

  11階 85.00㎡:8980万円=349万円

 

※下段の駅近(徒歩10分以内)の3例と比較しても深沢ハウスは負けない価格で取引されていることが分かります。 

 ●同年代の近隣中古マンションの取引(成約)事例:過去1年の中からピックアップ

*学芸大5分「ライオンズガーデン碑文谷」497.62㎡:9998万円=339万円

*祐天寺10分「アルス目黒祐天寺」381.78㎡:8480万円=343万円

*都立大9分「パークコート目黒碑文谷」590.58㎡:8900万江=325万円

 



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